マキャベリ「君主論」を読んで…

君主論を読んで思うこと
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マキャベリは、大学を出ていないにもかかわらず、その才覚が認められ、29歳でフィレンツェ外交官に抜擢された。そして様々な国王との交渉を行った経験から、誠意だけでは問題が解決しないことを知る。43歳の時、外国の介入によるクーデターで、政府を追放されると、マキャベリは自らを奮い立たせるように、“政治論文”を書いた。それが「君主論」である。人間の現実を通して、指導者の決断とは何かを説いた君主論は、道徳論ばかりが語られていた当時の社会では、極めて画期的だった。第1回では君主論に込められたマキャベリの真意に迫る。
https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/06_principe/index.html
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私が「どんな本を読んだらよいですか?」とお客さまに言われたら、間違いなくマキャベリの君主論を選ぶだろう。
ビジョナリーカンパニーとか、著名な経営者の著作など様々な本よりも、私は万事に通じる名著を推薦したい。
(私は読書数を増やすよりも、世界の名著と呼ばれる著作をしっかりと読み込み、それを実学として実践に役立てることが偉大と思っている)
君主論は国のリーダーがどのように政治を行うべきかを記した本ではあるが、内容は経営に通じるところが多い。
その内容は、人心掌握から統治(経営)手法、リーダー論、統治(経営の現実)など様々である。
特に歯に衣着せぬ物言いであるため、マキャベリの言葉を読むだけで悩みが解決される経営者も多いであろう。
中小企業の経営者にとっては必読書だと思っている。
例えば、同族経営の経営者には以下の言葉が通ずる。
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さて、 国 を 保持 する 難し さは、 新た に 生まれ た 国 に 較べ て、 君主 の 血統 に なじん で き た 世襲 国家 の ほう が、 いたって 少ない と いえる。 それ は、 後者 に あっ ては、 父祖 から 受け継い だ 慣習 を おろそか に し なけれ ば よく、 しかも 不測 の 事態 が 起きれ ば、 時 を かせい で 解決 を 待て ば よい から だ。 こうして 君主 は 人 なみ の 心がけ さえ あれ ば、 まんいち 途轍 も なく 強い 勢力 が 現れ て、 身分 を 奪わ れ でも し ない かぎり、 君位 は つねに 安泰 で ある。 それに、 ひとたび 君位 が 奪わ れる ことが あっ ても、 占 奪 者 に ちょっとした 不運 が めぐっ て くれ ば らくに 取り返せる。
マキアヴェリ. 君主論 新版 (中公文庫) (Kindle の位置No.143-149). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
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同族企業の経営者は世代が変わったとしても、永年のDNAがあるはずでそれをまずは大切にするべきだ。
確かに世の中を見ていてもそうで、実力主義の中で社長を選ぶ組織においては出世競争が激化するが、オーナー経営においては誰も血縁がなければ社長を目指そうとしない。
そして中小企業においては初代が偉大であり、そのDNAにより多数の従業員の心をひきつけている場合も多く、先祖に足を向けて寝ない。という日本人的な考え方もあるのか、文句は言うものの反乱とまでいく例はあまり聞かない。
この言葉を2代目以降の経営者は知り、どっしりと構えれば良いという意味で有効だ。
次はM&Aに通じる部分である。
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た ほう、 言語 も 風習 も 制度 も 異なる 地域 の 領土 を 手 に 入れ た ば あい、 そこ には いろいろ な 困難 が 待ち うけ て いる。 それ を 維持 する には、 大いなる 幸運 と、 たいへん な 努力 が 必要 に なる。 この さい の、 もっとも 効果的 な 対策 の 一つ は、 征服 者 が 現地 に おもむい て 移り住む こと で あろ う。 この 方策 を とれ ば、 領土 の 保持 がより 確か な もの となり、 より 永続 しよ う。
マキアヴェリ. 君主論 新版 (中公文庫) (Kindle の位置No.214-217). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
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マキャベリは新しい土地を手に入れた時にやってはいけないことに、その土地にあるルールや習慣、宗教には手をつけてはいけないと説いている。
そしてその土地に住む人々と同じように生活をともにして、不穏な気配を察知して、すみやかに善後策を考えるのだ。
これは私の支援スタイルにも共通する部分があると思っている。
最近のコンサルティングは、Zoomなど文明の利器に頼って直接の訪問を疎かにしていると思う。
確かに時間を節約し効率を最大化するには、直接訪問などなくせばよいと思う。
おそらく大半をZoomにすれば、2倍以上のお客さまのご支援はできるだろう。
私はそれではいけないと思っている。
まず、コミュニケーション手段として最も効率が良いのは対面である。
技術進歩が進んでも、この結果はさほど変わらないと思う。
経営の大切なことを話すことであるし、経営とは会社のすべてであることから、自然と話始めると1時間では終わらずに数時間であることも多い。
ちょっとした議論から横道に逸れた時の話、雑談のようなものが、意外と物事の本質をついていて、そこから話が発展していくことを何度も経験している。
そういう話が最終的に新規事業につながることさえある。
私はお客様から断られない限り、例え数時間の訪問であっても現地に赴くことにしている。
それは私にとっての差別化戦略でもあり、本質に大切なことを大切にしつづける意味でもある。
また、それこそがマキャベリの言う、領土保持を確かなものにしていくためにも大切なことであると信じているからだ。
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これ に つけ ても 覚え て おき たい のは、 民衆 という もの は 頭 を 撫でる か、 消し て しまう か、 その どちら かに し なけれ ば なら ない。 という のは、 人 は ささい な 侮辱 には 仕返し しよ う と する が、 大いなる 侮辱 にたいして は報復しえないのである、したがって、人に危害を加える時は、復讐のおそれがないようにやらなければならない。
マキアヴェリ. 君主論 新版 (中公文庫) (Kindle の位置No.239-241). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
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一方で綺麗な言葉だけでなく、マキャベリズムと呼ばれる所以となった言葉も多く存在する。
一つは民衆に対する対処策だ。
この前後の文脈も含めると、自由は自由で良い。
実際は自由という名分や制度が逃げ場となって、絶えず反乱がおこる。と書かれている。
恐怖のない自由な組織は、高度な組織である場合、絶えず自分自身を自省しながら仕事に当たるので反乱は起きにくい。
しかし大半の組織はそうではない。
(自由な組織と言われる組織は、信賞必罰など厳しいルールに縛られていることも多い。目には見えにくいが、そこで働くメンバーには完全なる自由でないことは分かっていると思う)
自由により怠慢や傲慢さが絶えず起こり、恐怖による抑圧がないために、その分子が拡大してしまう。
だからこそ、恐怖により全体を支配して、一国の主が自らが思う進むべき方向へ導いていく方が国の運営は上手くいくということを示唆している。
自由をそのまま信じてしまうと大変なことになってしまう。
また、分割統治や委任統治についてもマキャベリは言及している。
結論としては、権力を極小化させるべき(フランスのような諸侯の集合体でできた国は征服することは簡単だが、統治はやっかいである。トルコのように小さな集合体の国は征服することは難しいが統治は楽である)
また、意思決定があいまいになる(意思決定の遅さや曖昧さをマキャベリは最も嫌っている)から直接統治した方が良いよと言っている。
マキャベリはリーダー論や人の現実にも言及している。
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勇敢 な 強い 君主 で あれ ば、 とき に、 こうした 災禍 など 長く 続く もの では ない と 臣下 に 希望 を もたせ、 ときには 敵 の 残虐 性 について 恐怖 心 を あおり、 また ある とき は、 とかく 無謀 に 走り がち な 部下 から 巧妙 に 身 の 安全 を 図り つつ、 かならず 難局 を のり 越え て いく もの だ、 と。
マキアヴェリ. 君主論 新版 (中公文庫) (Kindle の位置No.1192-1194). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
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しかし、 人 が 現実 に 生き て いる のと、 人間 いかに 生きる べき か という のとは、 はなはだ かけ離れ て いる。 だから、 人間 いかに 生きる べき かを 見 て、 現に 人 が 生き て いる 現実 の 姿 を 見逃す 人間 は、 自立 する どころか、 破滅 を 思い知らさ れる のが 落ち で ある。 なぜなら、 何ごと に つけ ても 善い 行い を する と 広言 する 人間 は、 よから ぬ 多数 の 人々 の 中 に あっ て、 破滅 せ ざる を え ない。 したがって、 自分 の 身 を 守ろ う と する 君主 は、 よく ない 人間 にも なれる こと を 習い 覚える 必要 が ある。 そして、 この 態度 を、 必要 に 応じ て 使っ たり 使わ なかっ たり し なく ては なら ない。
マキアヴェリ. 君主論 新版 (中公文庫) (Kindle の位置No.1698-1703). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
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この言葉を聞くとあるリーダーを思い出す。
その方は「私の仕事は想定外だ。ミスや失敗なんかいくらでも持ってこい」とおっしゃっていた。
私もミスや失敗はいくらでもしたが、銀行員時代も含めて致命的になるようなことは一度もしていない。
それはこの方人に恵まれた結果、優れた上司や先輩、リーダーとともに仕事をしていきたことがあると思う。
その経験から致命的になる前に嗅覚が働くし、一度意思決定しても、再起可能なうちに方向転換するようにしている。
自分自身のこだわりはあるが、プライドやサンクコストとなっていないかは常に考えているからであろう。
私自身もそのことからリーダーは、悪い時にこそ支えること。大きな困難があった時には手を携えること。が大切だと思っている。
他方、自ら成長している場面においては、何も言わずにじっと見ていること。が大切だと思っている。
こういう仕事をしていると「おれがやった」と成果を自慢したがるコンサルタントの多いこと。
私はそこにはこだわりはなくて、お客さまが成功だと思えばそれだけで良い。
必ずその一翼は私も担っているはずである。
最後は、どんなに時代が変わったとしても、
思慮を思い巡らすために準備をしすぎることよりも、まずは進んでみる方が良いことを示唆している。
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わたし が 考える 見解 は こう で ある。 人 は、 慎重 で ある よりは、 むしろ 果断 に 進む ほう が よい。 なぜなら、 運命 は 女神 だ から、 彼女 を 征服 しよ う と すれ ば、 打ちのめし、 突きとばす 必要 が ある。 運命 は、 冷静 な 行き方 を する 人 より、 こんな 人 の 言いなり に なっ て くれる。 要するに 運命 は、 女性 に 似 て つねに 若者 の 友 で ある。 若者 は 思慮 を 欠い て、 あらあらしく、 いたっ て 大胆 に 女 を 支配 する もの だ。
マキアヴェリ. 君主論 新版 (中公文庫) (Kindle の位置No.2713-2717). Chuokoron-shinsha,Inc.. Kindle 版.
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これはいつの時代も「完全情報」の中で決断を下すことは難しいということである。
経営者は常にすべての情報が揃っていなくとも(ただし、情報は自ら集めにいかなくてはならないし、情報を集める仕組みは構築すべくであるが)決断をして進まなくてはならない。
昔ある経営者が「技術はいずれ陳腐化するから、最初に投資するのではなくて、価格や技術がある程度成熟化した時に投資をするのが一番賢い」と言っていた。
それはその通りなんだと思う。
でも実際には、技術の変遷を全く見ていないメンバーは、参入時期は適切であったありがちな課題や失敗に向き合っておらず、結局は他社と同じような変遷を辿ることになってしまった。
結局はとある戦略で他社に大幅な遅れを取ってしまったのであり、私が見る限り未だにそこは取り戻せていない。
経営に携わる期間が長くなっていると、世の中の正解とされているものと、経営の世界で選ぶ選択肢がかけ離れていることをより感じるようになる。
人を率いて、導いていくためには綺麗ごとだけでは済まないのである。
そんな現実をマキャベリは教えてくれる。